若狭の山と峠 16 多田ヶ岳

  小浜市街の南、南川を隔てて位置し、華麗な勇姿を見せる多田ヶ岳は、北側の山麓に式内多田神社、多田寺があり、山名はこれによるという。別名長尾山ともいう多田ヶ岳の周辺には多くの寺社が点在しており、昔から信仰の山として山麓の住民に親しまれ、小浜市民にとっても、最もなじみの深い山である。

 また、この山は高さも、道のりも手頃で、山好きの者には格好の山でもある。さらに寺社巡りと登山とを組み合わせれば、興味深い山行となろう。加えて庭園のような山頂からは、360度の展望を心ゆくまで味わえ、その素晴らしさが感慨を一層深めさせてくれる。

 多田ヶ岳への登山ルートとしては、野代の妙楽寺からと多田の多田寺からの二つがある。前者の方がポピュラーであり、本書ではメインルートとして紹介したい。一方、多田側からのルートは、林道を利用するので短時間に山頂に至ることができるが、林道歩きが長いので、下山時のサブルートとして利用することをお奨めする。

 なお、この山は以前は松茸の採れる山で、秋のシーズンには「無断入山禁止」の看板があちこち(現在は、野代側の入口付近のみ)に見られました。この時期に入山するには、地元区長さんに届ける必要がありましたが、現在は不要となっています。(2023.9.20修正)

 

(追加情報) 〈2021.6.21更新〉

 野代からのルートは、主に沢沿いを使いますが、尾根沿いに野代山に向かうルートが、一時期、整備されつつありましたので、その踏査結果を③項に追加いています。このコースは全体的に急坂で、途中岩場があるので、一般的とは言えませんが、ある程度山歩きの経験のある方には、面白いコースかもしれません。このルートは、P488で通常のルートと合流します。ただ、最終踏査時点では、以前設置されていた標識も朽ちつつあり、道も分かり難くなっていました。また、倒木や灌木の生え混でいるところもあり、あまり快適には、登れませんでした。なお、このコースを下りに使うのは止めて下さい。。 

 また、P488の先で、通常ルートは野代山をトラバースしていきますが、今回、野代山に登ってみました。すぐに岩場があり、落石に気をつけて登る必要があります。山頂付近にもさほど面白い景色はありませんが、興味のある方のために③項の中に、コース案内を掲載します。


コース紹介

①野代から多田ヶ岳へ    ■対象:初級コース   (最終調査:2019.03.08)
  妙楽寺の広場に車を止め、ここを出発点とする。妙楽寺を出て、谷川に沿って林道を行くと、途中から桜並木がある。この桜が登山口まで続いているので目印にすると良い。 

 瀬波戸の登山口に着き、しっかりした石の一本橋を渡ると、山道となる。沢を2回ほど渡渉すると、右手に緩やかに登って行く。道はしばらくの間、左岸を高巻きながらトラバースしていくが、ここにはフィックスロープが設置されている。雨の日などは、滑りやすいので気を付けてほしい。やがてトラバースは終わり、平らな所に出る。ここは、休憩に良い場所である。

 その先で、沢は二俣となり、その間の尾根に取り付く。ここは最初の杉林(現在は、伐採により自然林になりつつある)である。道は尾根の右を通るようになり、しばらく先で、沢を渡り、沢沿いに進む。 

 やがて、道は右手の尾根に取り付き、杉林の中、左へトラバースしていく。この辺りにも固定ロープが設置されている。しばらくで、沢が三俣に分かれる所に出る。今度は、左側二つの沢の中間の杉林の中を登っていく。やがて急な登りとなり、その先ではっきりとした尾根の上に出る。杉林から開放されて、落ち着く場所である。

 ここからは、少し登った後、左側にトラバースしていく。一度、右、左と折り返すが、再び左側に長くトラバースしていくと、広々とした所に出る。広葉樹の気持ちの良い林が広がっている。

 この後は、最後の杉林の中、急な斜面を登っていく。杉林の中は道が分かり難く、テープや標識をたよりに登っていく。やがて、道は左側に水平に進むようになり、少しの時間で稜線に出る。稜線に出ると、突然左前方に多田ヶ岳の頂が円錐形の美しい姿を見せてくれる。多田ヶ岳は、すぐ近くに見えるのに、道は、多田谷を大きく回りこむように付けられている。 

 道は、野代山と多田ヶ岳を結ぶ尾根道の下をトラバースしていく。途中、斜面が崩落した地点に出るが、そこは、少し手前に付けられた迂回路を、フィックスロープに助けられながら、尾根に上がる。

 そして、長いトラバースに飽きてきた頃、多田側から来る道との分岐点に着く。ここからは急坂に付けられたジグザグの道を、頂上に向かう。 

 庭園さながらの頂上からの展望は素晴らしい。百里ヶ岳を始めとする重畳たる山の峰、小浜湾を抱くように広がる街並みの風景はいっぺんに疲れを癒し、心を和らげてくれる。頂上の岩場から少し下手には、麓の先人達の信仰の証の石像がある。 

 帰りは、元来た道を下るか、先ほどの分岐点から多田方面に下る。(多田方面へは、次項参照)  

■コースタイム

 妙楽寺→15分(15分)→瀬波戸の滝→30分(20分)→最初の杉林→40分(30分)→稜線→50分(40分)→多田分岐→20分(15分)→頂上
 (  )内は、逆コースのコースタイム


②多田から多田ヶ岳へ      ■対象:中級コース   (最終調査:2019.03.08)
 国道27号線を車で上中方面に向かい、遠敷の木崎の信号を右折し、多田集落へ向かう。多田集落には、古刹多田寺があるので、時間があれば立ち寄るのも良い。多田寺を過ぎ、さらに進むと、若狭西街道に出るので左折し、しばらく行くと、遠敷トンネルがある。この手前、右側が、多田林

道の入り口である。現在、多田林道は通行止めとなっており、林道入口に、数台駐車は可能である。(台数が多い場合は、ロープを外して、その先に駐車する。) 

 林道入り口からは、約4kmの歩きとなるが、1時間程で最後の橋を渡って登山口の広場に着く。登山口には、登山口を示す標識が立っている。以前は、正面が登山口であったが、現在は、右手に変わっている。なお、道の状況にもよるが、登山口まで林道を車で入ることも出来る。ただし、入口の扉に鍵がかかっているので、多田の森林を管理されている組合から借りる必要がある。

 登山口からは、いきなり杉林の急坂をジグザグに登って行くが、10分程で平行に進むようになる。道沿いには、フィックスロープが張ってあるので、心配な方は使うと良い。これからも随所にロープが設置されている。その後、道が崩落している地点に出る。ここには補助のロープが設置されているので、それを使って通過する。再びジグザグに登って行くと、「布ヶ滝」が見える。実にスマートな滝である。 

 登山口から約40分で、左岸に渡る。いくつかの枝沢があるが、水量の一番多い本流を詰めて行けば間違いはない。谷の左岸は雑木、右岸は杉林が続く。 

 両側からの谷が狭まった頃、足元に炭焼きの窯跡があり、前方20m位の所で二俣になっている場所に着く。ここを左に登っていく。標識やロープがあるので、安心して進むことが出来る。 

 10分程で尾根に出るが、少し登ってから右にトラバースして行くと、野代からの登山道に合流する。踏み跡のしっかりした道をひと頑張りする。急登約20分で山頂に着くが、この登りを経ないと山頂の歓喜はない。 

■コースタイム
 林道入口→60分(45分)→林道終点(登山口)→20分(10分)→布ヶ滝→40分(25分)→炭焼き窯跡→20分(15分)→野代コースとの合流点→20分(15分)→山頂
 (  )内は、逆コースのコースタイム

 

③野代から多田ヶ岳へ(尾根沿いの新ルート)  ■対象参考情報  (最終調査:2021.6.21)

 ①のコースで、登山口に向かう。送電線の下を通過し、登山口の少し前で、左手に入る林道があるので、そちらに入る。やがて林道は終点となり、右手に多田ヶ岳の標識が付けられている。ここまで、妙楽寺より、25分程である。 

 ここから最初少し沢沿いに進んだ後、右手の尾根に向かって登っていく。始めは急な道で、標識、テープが要所に付けられてが。標識が朽ちつつあり、また、倒木もあって、道が分かり難くなっている。急なところには、ロープが設置されているので、参考にすると良い。登り口から20分程で、尾根に出ると、少し傾斜はゆるくなる。雑木林の尾根を登っていくが、木の間から市街地を見ることも出来る。尾根上には、倒木が結構あり、登り難い場所もある。所々急なところがあり、ロープが付けられている。道の両側にはイワカガミが出てくる。なだらかな道となり、青葉山も見られるようになった頃、P488手前の小ピークに着く。ここまで、登り口から1時間程である。なお、小ピーク周辺は、灌木が生え混んでいる。 

 小ピークから一旦下り、登り直す。なお、小ピーク辺りからは、標識や赤テープはないので、ルートには注意して進んで欲しい。急斜面であるが、ジグザグに道が付けられており、さほど苦にならない。イワカガミの群生も素晴らしい。小ピークから10分で、前に大きな岩場が現れる。岩の間を登っていくが、初心者には少し心配なルートである。慎重にルートを選んで進んで欲しい。岩場の通過に10分程要する。岩場を通過すると、すぐにP488に出て、通常のルートと合流する。

 なお、岩場があることや、登山口付近のルートが不明瞭なことから、このコースは、登りでのみ使って欲しい。 

 

 

(野代山)

 多田ヶ岳に登る通常のコースは、野代山を巻いていくが、一度、稜線通しに、多田ヶ岳を目指した。合流点から少し行くと、道は左にトラバースしていくので、その道を見送り、尾根に入る。すぐに岩場となる。岩は脆く、木の根などをつかみながら、慎重に登っていく。落石し易いので、人数が多い時は要注意である。15分程で、岩場の上に出る。そこからブナなどの混じる尾根を5分程進むと、野代山に着く。山頂らしくない山頂で、岩場のあることも踏まえると、登山道がトラバースしているのも頷ける。 

 この先も、稜線通しに多田ヶ岳に向かうことができるが、あまり気持ちのよい尾根ではなく、また、後半は上り下りも多いので、あまりお勧めではない。興味がある方は野代山に登り、その後は通常の登山道に戻った方が良さそうである。

■コースタイム 

 妙楽寺→25分→林道終点→20分→尾根→30分→小ピーク→10分→岩場手前→15分→P488→20分→野代山→5分(多田ヶ岳方面へ)→登山道に戻る

地図

④多田ヶ岳・東尾根コース(参考情報) (最終調査:2016.3.12)

 (注)このコースは一般ルートではありません。経験者以外は入らないで下さい。

 神宮寺を過ぎ、地図に忠野と書かれた地点の対岸より、取付く。獣避けのネットがあるので、少し上流から入り、少し戻って取付いた。取付きからは、急登です。雨上りの場合は、滑るので、木につかまって、這い上がるような場所もあります。200m位登ると、やや緩やかな尾根となり、

P337を通過する。その後、再び急な斜面となり、ユズリハが出てくると、すぐに東尾根に出る。

 その後は、なだらかな尾根となるが、ユズリハが繁茂している場所もあり、快適とは言い難い。なだらかな尾根が続くが、何箇所か急な場所があり、そこでも木につかまって、登ることになる。ただ危険個所はないので、その点は安心である。また、気持ち良い広場もあり、登ってきたことに満足することにもなる。

 神宮寺からP595を経て登ってくる尾根と合流すると、最後の登りとなって、山頂に着く。登山口からは、3時間程度みておいた良いだろう。

⑤多田ヶ岳・須縄コース(参考情報) (最終調査:2016.6.15) 

 (注)このコースは一般ルートではありません。経験者以外は入らないで下さい。 

 小浜から国道162号線を、名田庄方面に向かい、左手の須縄集落(須縄大滝のある方向)に入る。最後の民家を過ぎて、林道をしばらく行くと、左手に橋が架かっている。その手前、右手に3台ほどの駐車スペースがある。

 橋を渡り、沢を右手に見て、林道を500mほど行く。右手に橋が架かるが、それを見送りさらに進むと、沢が二又となる。その正面の尾根を登る。 最初は急斜面で歩き難いが、20分も登ると、尾根は緩やかとなる。標高300m手前で、右から尾根が合流するが、下りの場合は、そちらに迷い込まないよう、要注意である。

 尾根は緩やかな雑木の林となり、所々、古い道が現れる。このあたりは、大変歩き易い。やがて、左手に植林が現れ、少し鬱陶しく感じるようになると、すぐに、多田ヶ岳から南に伸びる尾根に合流する。駐車地点から、ここまで、約1時間30分である。

 この先は、左手が植林、右手が自然林の尾根が続く。左の植林が若干邪魔であるが、歩きやすい、綺麗な尾根が続く。紅葉の木が多いので、秋は良いかもしれない。やがて植林がなくなり、岩が点在するようになると、東尾根の合流が近い。東尾根合流直前は急斜面で、木に捕まって直登するか、左手に少しトラバース気味に進む。

 東尾根に乗った後は、左手に少し行けば、本来の登山道に合流し、山頂に着く。南尾根合流から山頂まで1時間ほど、駐車地点から山頂まで、2時間半ほどの道のりである。

(注)下の軌跡には、下根来へのルートも載せていますが、お勧めのルートではないので、参考程度に見て下さい。